前回のコラムから数回にわたり、微生物の糖鎖について扱っていきたいと思います。今回のコラムではグラム陰性菌について紹介します。 グラム陰性菌の菌体表面の構造概略図を図 1 に示します。
その構造は、大きく分けて細胞内膜、ペプチドグリカン層、細胞外膜から構成されています。細胞内膜は通常のリン脂質膜であり、その外側のペリプラズム領域にペプチドグリカン層が存在します。グラム陰性菌はペプチドグリカン層が薄く、グラム染色に陰性(染まりにくい)であることから、その名がついています。グラム陽性菌は、厚いペプチドグリカン層を持つため、グラム染色に染まります。グラム陰性菌では、内膜の外側に細胞外膜という構造を有しています。グラム陰性菌では、この細胞外膜が生きていく(宿主内において)上で非常に重要な役割を果たしています。細胞外膜には、Lipid A と言われる脂質成分から非常に長い糖鎖が伸長しており、膜に近い領域に存在する糖鎖はコア糖鎖あるいは保存領域と言われ、そこから O抗原といわれる糖鎖が伸長し菌体を糖鎖で覆っています。菌体を覆っていることから莢膜多糖類とも言われています。コア糖鎖にはヒトなどでは存在しない非常にユニーク糖が確認できます。図 2 に示すような、7炭素からなる Heptose (Hep)、8炭素からなる 3-deoxy-D-manno-oct-2-ulosonic acid (KDO) が存在します。
菌体特有の糖(糖鎖)であることから、この領域はワクチン開発のターゲットにもされており、合成研究、構造解析研究がおこなわれてきました。O抗原と呼ばれる糖鎖は菌特有の糖鎖ではありません。すなわち、ヒトの糖鎖を模倣しています。ヒトの糖鎖を模倣することで、免疫監視システムから逃れるよう機能していると考えられています。このようなユニークな糖鎖を持つグラム陰性菌は病原性が高いものが多く、Neisseria属、Campylobacter属、Haemophilus属など髄膜炎菌や性感染症などを引き起こします。 次回からのコラムでは、グラム陰性菌について掘り下げていきたいと思います。
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筆者プロフィール
naruken
博士(理学)北海道大学大学院理学研究科
専門:糖鎖工学、タンパク質工学、構造解析