数回にわたり、糖転移酵素の繰り返し利用について紹介してきました。糖転移酵素を樹脂等に固定化する際、結合様式は「固相樹脂に共有or非共有結合」に大別されます。酵素の活性を維持した状態で、酵素を樹脂等に固定化する場合、酵素活性に関与しない部位を樹脂に固定化する必要があります。
前回のコラムでは、 Helicobacter pylori 由来α1,3-Fucosyltransferase (FucT) のアミノ酸配列とそのユニークな立体構造について紹介しました。今回はその立体構造の特性を活用した酵素固定化法と、複合糖質合成への応用について、紹介します(Angew Chem Int Ed Engl. 2011, 50, 1328-1331. DOI: 10.1002/anie.201007153)。
Helicobacter pylori 由来α1,3-FucT は、C末端にDDLRVNY の繰り返し構造である Heptad repeats と塩基性アミノ酸リッチなα-ヘリックスと推定される構造を持ち、これらの立体構造が全長配列としての酵素調製(生産)を困難にしていました。大腸菌体内で組換え体として作らせた糖転移酵素は、通常pH 5 ~ 8 の緩衝液を使用し回収されます。Helicobacter pylori 由来α1,3-FucT は、これらの pH で可溶化を試みた場合、大腸菌破砕残査と共に沈殿物として回収されてしまいます。この沈殿は C 末端の塩基性リッチなアミノ酸配列と大腸菌体膜との相互作用に起因すると考え、相互作用を防ぐ目的でpH 10.0 にて菌体破砕が実施されています。この方法によって、長年調製が困難とされた全長配列を有する Helicobacter pylori 由来α1,3-FucT の調製が達成されました。論文に記載されていない裏話として、以前の研究でグラム陰性菌であるNeisseria meningitidis 由来β1,3-GlcNAcT の至適 pH が 12 という結果があり、微生物由来の糖転移酵素はアルカリ側の pH でも失活しないという経験も上記の pH 10 での可溶化トライの後押しとなっています。Helicobacter pylori 由来α1,3-FucTは pH 変動によって下記に示すような立体構造変化が生じています。
α1,3-FucTの C 末端ペプチドを有機化学的に合成し円二色性分析すると、膜成分(リポソーム)が存在する時のみαヘリックス構造が誘起されることが判明しています。よって、アルカリ条件下で抽出、精製されたα1,3-FucT は、中性条件下で膜成分と混合した場合、再びαヘリックス構造が誘起され、膜成分に接着すると推定されました。実際に、膜成分で被覆した磁性微粒子と混合してみた結果、 C 末端配列を介してα1,3-FucT が固定化できることが明らかとなりました。
磁性微粒子上に固定化されたα1,3-FucT は、類まれなる性質を有しており、ラクトサミンを基質とした Lewis X の繰り返し合成を試みた結果、活性を低下させることなく40回以上も使用が可能でした。
また、α1,3-FucT 固定化磁性微粒子は N-結合型糖鎖、O-結合型糖鎖、糖脂質に対してLewis X 構造構築を達成しました。
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筆者プロフィール
naruken
博士(理学)北海道大学大学院理学研究科
専門:糖鎖工学、タンパク質工学、構造解析