第6話 糖鎖が作られる仕組みとは ~生み出される不均一性

 糖タンパク質には、O-結合型 (Ser、Thr の側鎖)、N-結合型糖鎖 (Asn の側鎖) のいずれか、あるいはその両方が付加していることを前回までのコラム(第4回; N-結合型第5回; O-結合型)で紹介しました。そもそも糖鎖は生体内でどのように作られるのでしょうか?糖鎖は、「糖転移酵素」と呼ばれる、その名の通り“糖”を“転移”する“酵素”が糖を次々に転移させることで糖鎖が構築されているわけです。すなわち、シアル酸を転移する酵素は「シアル酸転移酵素」、ガラクトースを転移する酵素は「ガラクトース転移酵素」、N-アセチルグルコサミンを転移する酵素は「N-アセチルグルコサミン転移酵素」といった具合です。糖をつなげていく役割を糖転移酵素が担っていることを説明しましたが、転移させるための“糖”はどんな構造をしているのでしょうか?遊離の単糖なのでしょうか?糖転移酵素は、糖供与体(糖ドナー)=糖ヌクレオチドと呼ばれる物質を糖供与源としています。糖供与体は、ウリジン 2 リン酸(UDP: Uridine 5’-diphospho-)系、グアノシン (GDP: Guanosine 5’-diphospho-) 系、シチジン 1 リン酸 (Cytidine 5’-monophospho-) 系に分類されます。これらの糖供与体は必ず決まった糖転移酵素とセットで働きます。組み合わせは下記のようになります。

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また、糖転移酵素は“酵素”なので、昔の高校の教科書ではないですが鍵と鍵穴の表現のように、決まった糖供与体だけではなく糖を受け取る(転移を受ける)糖受容体の構造も認識しています。つまり、糖転移酵素それぞれで基質特異性がある、ということです。これらの基質特異性から、生体内ではヒトから微生物にいたるまで、決まった生体内で生合成経路と言われるルートに従って糖鎖が作られていくわけです。これらの糖転移酵素は、供与体、受容体の濃度によって転移効率(反応速度)が違うことや、ゴルジ体など糖転移酵素が多数、同時に存在している環境下では100%転移反応が起こる前に生合成の次の修飾(糖転移)が起こり、この繰り返しによってバラエティーに富んだ糖鎖が作られます。これが糖鎖の不均一性ということです。例えば血液中に存在し、免疫の中心を担っている抗体 (IgG) は下図に示すような非常にバラエティーに富んだ 2 分岐型 N-結合型糖鎖が存在しています。

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抗体の糖鎖は、特にバイオ医薬品の機能増強の観点から注目されています。ある特定、単一の糖鎖を抗体に付与しようと様々な試みがされています。特定の糖を付加させないためには、その糖を転移する酵素の遺伝子を分子生物学の手法を用いてノックアウトすれば糖鎖の構造を制御できそうですが、現実では完璧に制御することはできていません。糖を転移するという反応には、糖転移酵素だけでなく糖供与体も関わっていることから、反応場において糖供与体の濃度も大きく関わっていると考えられます。

 弊社では、フコースを転移する酵素であるフコース転移酵素とシアル酸を転移する酵素であるシアル酸転移酵素を試薬として販売しています。また、糖タンパクなどの糖鎖を質量分析装置を使用して解析する受託サービスを提供しています。精製タンパクやゲルから抽出したタンパク質など様々なサンプルに臨機応変に対応いたしますので、お気軽に御相談ください。

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筆者プロフィール
naruken
博士(理学)、北海道大学大学院理学研究科
専門:糖鎖工学、タンパク質工学、構造解析

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