~なぜ糖鎖~ 糖鎖の視点

~なぜ糖鎖~ 糖鎖の視点 Sugars are everywhere in the world,especially in our body

[ 取締役 加瀬 廣 ]

糖鎖とは

糖の定義は「2個以上のヒドロキシル基をもつアルデヒドあるいはケトン」です。したがって、炭素原子が3つ以上で糖ができ、7炭糖まで考えたとしても理論的に莫大な種類の単糖が存在することになります。これに結合様式と分岐を合わせると糖鎖はまさに天文学的バリエーションをもちます。とはいえ、ヒトの体で糖鎖に頻用される糖は6炭糖を中心に以下の10種類ほどです。

グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N-アセチルグルコサミン、
N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルノイラミン酸、グルクロン酸、イズロン酸

糖鎖とは、各種の糖がグリコシド結合によってつながりあった一群の化合物を指します。結合した糖の数は2つから数万まで様々で、10個程度までのものをオリゴ糖とも呼びます。糖鎖は糖同士だけでなく、タンパク質や脂質、その他の低分子とも結合して多様な分子を作り出します。
糖鎖のなかでも、動物の体内に存在し生命活動に深く関わり生理活性を有するものとして複合糖質があります。複合糖質は糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンに分類され、生体内の様々なイベントの初期段階での「物質認識のアンテナ」として重要な役割を果たしています。

  • 糖タンパク質
    タンパク質に比較的短い糖鎖がついたものが糖タンパク質です。鎖の数は数本~数十本とさまざまです。タンパク質の主要な糖鎖修飾は、N-型糖鎖修飾O-型糖鎖修飾で、それぞれ共通の構造の起始部を持ちます。
  • 糖脂質
    脂質としては2種、グリセロ脂質とスフィンゴ脂質で、主にスフィンゴ脂質に糖鎖がついています。糖脂質のほとんどは細胞膜と細胞内膜構造に存在し、脂質二重膜内部から膜表面へ突き出すような形で特定の化合物の認識サイトとして働いています。ガングリオシド(GM3など)やガラクトシルセラミドはスフィンゴ脂質です。
  • プロテオグリカン
    保水性の高い長い糖鎖のグリコサミノグリカンとコアタンパク質が一定の結合様式で結合した複合体がプロテオグリカンです。グリコサミノグリカンとはヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパラン酸、ケタラン硫酸などを指します。ただしグリコサミノグリカンの中でヒアルロン酸は例外的にプロテオグリカンとしては存在しません。

糖鎖の多様性

生命の最小単位である細胞は、核に遺伝子情報を持ち、これを鋳型として必要に応じて多様な機能分子を合成することで生命を維持しています。ゲノムに含まれる遺伝子数は約3万個と推定される一方で、プロテオーム中のタンパク質数は100万個以上と推定されています。遺伝子の転写の過程で生じる選択的スプライシング(alternative splicing)という仕組みによって、ヒトの遺伝子の90%以上が一つの遺伝子から複数の転写産物(トランスクリプトーム)を生み出すため、転写産物のサイズが増大します(~10万個)。さらに様々な無数の翻訳後修飾により、ゲノムレベルからプロテオームレベルへと複雑性が高められます。
翻訳後修飾は、プロテオームの多様性を高める機構として非常に重要です。

では、最も多様性を生じさせる翻訳後修飾は何でしょう?
それは糖鎖です。タンパク質を修飾する糖鎖の種類と数が多いばかりでなく、それらが修飾する位置の違いによってさらに多様性が増します。

糖鎖の分布は一般に細胞外に偏っています。体内のタンパク質の実に半分以上は糖鎖で修飾(グリコシル化)され糖タンパク質として存在するといわれていますが、細胞表面のタンパク質や分泌タンパク質に限るとその殆どは糖鎖を持っています。

糖鎖は小胞体で作られ始めてゴルジ体で成熟していきますが、一部の糖鎖はゴルジ体で合成が始まるものもありますし、細胞表面で合成される糖鎖(ヒアルロン酸)もあります。膜を構成する脂質にもゴルジ体中で糖鎖修飾がなされます。

糖鎖の視点(図1)

糖鎖修飾は、医療、食品、健康食品、化粧品、化成品、素材、環境など広い分野の研究開発に影響力を増してきました。
糖鎖修飾を適切に見極めて理解することが不可欠になります。

糖鎖修飾は、タンパク質の構造を変え、タンパク質の物性や代謝や機能に大きな影響を与えます。生物に関わるあらゆる分野の研究とその応用には、糖鎖修飾を適切に見極め、理解することが不可欠になります。では、糖鎖がどのような関わりをもつのか?例示してみました。

  1. タンパク質の物性改良
    • 安定性が増す
    • 分解が防がれる
    • 水溶性が増す
    • タンパク質自身の正しい折り畳み(folding)促進
  2. タンパク質の品質管理
    古くなったり、傷ついたりしたタンパク質の糖鎖を認識して、分解・新陳代謝の指標となる
  3. タンパク質の保護
    分解や熱からタンパク質や細胞を守る
  4. 細胞の種類を識別
    • 血液型は表面の糖鎖構造の違いによってABOに分けられている。
    • 細胞ががん化すると糖鎖構造に違いが出る。
  5. 細胞の顔:細胞間情報伝達アンテナ
    • 細胞間の認識と接着、細胞内へシグナル伝達
    • 細胞の分化に関与
    • 受精、発生、形態形成、がんの増殖・転移・血管新生などに関与
  6. 感染の入り口
    • 細菌やウイルスは細胞表面の特定の糖鎖を認識して体内に出入りする。
    • 増殖したインフルエンザウイルスが細胞外へ出る時シアリダーゼで糖鎖を遊離する。インフルエンザ薬はその効果を阻害し効果を発揮する。
  7. 薬への応用
    • QuaDRAD™:当社独自の糖鎖テクノロジーが実現した高性能な抗体創薬エンジンです
    • 糖鎖によりタンパク質医薬、抗体医薬の活性がコントロールされる
      例:エリスロポエチンは糖鎖修飾されないと活性を持たない。
         抗体のADCC活性は、糖鎖修飾による制御が重要である
  8. 薬を生体内に運ぶ
    糖鎖の特異的な反応を利用して、目的の臓器に適切に薬を運搬できる技術(DDS)に応用できる

図1 糖鎖の視点 糖鎖修飾を適切に見極めて理解することが不可欠です

糖鎖修飾により誘導されるタンパク質の構造変化

タンパク質のN-型またはO-型糖鎖修飾によって、タンパク質の生物物理学的(biophysical)性質は変わり、その結果遺伝子から翻訳された生来のタンパク質の機能が制御されます。糖鎖修飾は、タンパク質の熱力学的および構造特性を変化させます。糖鎖修飾によるタンパク質の構造変化は、糖鎖の種類と結合位置によって異なり、それによってタンパク質のコンホメーションも異なった影響をうけることになります。

参考文献

  1. Walsh, CT. et al. Protein posttranslational modification: the chemistry of proteome diversification. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 44, 7342-7372 (2005).
  2. Mitra, N. et al. A N-linked oligosaccharides as outfitters for glycoprotein folding, form and function. Trends Biochem. Sci. 31, 156-163 (2006).
  3. Lee, HS. et al. Effect of N-glycosylation on protein conformation and dynamics: Protein Data Bank analysis and molecular dynamics simulation study. Scientific Reports 5, 8926 (2015).
  4. Meyer, M. & Moller H., Conformation of Glycopeptide and Glycoproteins. In Glycopeptides and Glycoproteins: synthesis, structure, and application. pp189-250, ed. Valentin Wittman (2007)

複雑で一筋縄ではいかない糖鎖の研究

糖鎖の体のなかでの働きが重要であることが明らかにされてきましたが、その構造が複雑で多様性に富むために、糖鎖研究とその応用や実用化は核酸やタンパク質に比べて大きく立ち遅れてきました。
しかしながら、複雑と思われる糖鎖も実は共通の構造とメカニズムを共有することがわかっています。

共通の構造:糖鎖に頻用される糖は6炭糖を中心に10種類ほどです。また、糖タンパク質のN-型糖鎖とO-型糖鎖の起始部の糖鎖構造はそれぞれに共通したものを持っています。グリコサミノグリカンも共通した糖鎖構造を起始部に持ちます。ケラタン硫酸のタンパク質付加様式はN-型、O-型のどちらもあります。

共通のメカニズム:タンパク質や脂質への糖鎖修飾がもたらす機能の特徴として、分子内相互作用と分子間相互作用が重要です。糖鎖修飾されたタンパク質や脂質の機能変化、それらの相互作用、細胞内および細胞間のクロストークなどの研究が蓄積するにつれて、糖鎖修飾に関する共通したメカニズムの理解も一部で可能になってきました。

糖鎖の研究で困った時には、何でもご相談下さい。

複雑で一筋縄ではいかないと考えられてきた糖鎖の研究ですが、ご安心下さい、熟練した技術と豊富な経験、知識をもった当社の研究員がご相談にのりサポートいたします。当社は糖鎖・糖ペプチドの受託解析、受託合成、タンパク質の品質管理で皆様をサポートさせていただくとともに、受託研究での課題解決(ソリューション)も行っていますので、お気軽にご相談ください。

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糖鎖の視点と創薬

1) ドラッガブルターゲット*と糖鎖 [*新薬の開発につながるようなターゲット]

細胞表面の膜タンパク質分泌タンパク質の殆どに糖鎖が修飾され糖タンパク質として存在しています

最近の調査(http://www.proteinatlas.org/humanproteome/druggable)から、抗体医薬の対象となる「ドラッガブルターゲット*」の70%は膜タンパク質と分泌タンパク質であることが明らかにされていますので、ドラッガブルターゲットの多くが糖鎖修飾されていることになります。

従って、ドラッガブルターゲットを狙う抗体の研究開発に「糖鎖」の視点を欠かすことができません。

2) 糖鎖修飾による糖タンパク質、糖ペプチドの構造変化

殆どが糖鎖を有する’ドラッガブルターゲット’を狙う抗体の研究開発にとっては、タンパク質の糖鎖修飾による構造と機能の変化が重要課題となってきます。タンパク質の構造に関しては、NMR, X線結晶構造解析、分子シミュレーションの組合せで、N-型およびO-型糖鎖修飾によりコンホメーションとダイナミックス(分子動力学)がどのような影響を受けるかについての知見がいくつかの糖タンパク質で得られてきました。
中でも、合成糖ペプチドは、注目しているタンパク質の部分構造として糖鎖修飾がコンホメーションとフレキシビリティーにどのように影響を与えるかについて研究され、医学的応用のための最小糖ペプチドエピトープを同定する研究とともに極めて有用なモデルシステムとなってきました。

Conformational Impact of O-glycosylation

  1. Rangappa, S. et al. effect of the multiple O-glycosylation state on antibody recognition of the imunodominant motif in MUC1 extracellular tandem repeats. MedChemComm 7, 1102-1122 (2016).
  2. Matsushita, T. et al. Site-Specific Conformational Alteration Induced by Sialylation of MUC1 Tandem Repeating Glycopeptides at an Epitope Region for the Anti-KL‑6 Monoclonal Antibody. Biochemistry, 52, 402−414 (2013).

~糖鎖化学から抗体医薬の創製へ~

医化学創薬株式会社は良質な創薬シードとして疾患特異的な構造の糖ペプチドを提供し がん免疫療法や炎症疾患治療に向けた抗体創製をサポートします。

製品

GlyPAL-EdAD™:抗体創薬のための糖ペプチド抗原ライブラリー
MCPの糖鎖医化学の技術、知識、ノウハウの蓄積が疾患特異的な構造の糖ペプチドの設計・合成に凝縮されたユニークな抗体薬シードライブラリーです

  • MUC-GlyPAL-EdAD™:ムチン(MUC1~MUC22) 由来ペプチドから糖鎖修飾が設計されて合成されます。各種がんの免疫療法、喘息、COPD, IBD, 関節リウマチなど各ムチンそれぞれに対応する治療抗体のシード抗原ライブラリーです。
  • GPCR-GlyPAL-EdAD™は、GPCRに対する抗体薬シードの抗原ライブラリーです。

Ed抗体:GlyPAL-EdAD™の糖ペプチド抗原をエピトープとする抗体(Ed-Antibody™ )で, 標的となる疾患特異的な構造の糖ペプチドがエピトープとなります。

技術

QuaDRAD™:Ed-Antibody™ を直接的に選択取得する効率的抗体創薬システムです。

サービス

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